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横浜地方裁判所 昭和36年(ヨ)17号 決定 1963年4月24日

申請人 榎本多津子 外二名

被申請人 東京芝浦電気株式会社

主文

申請人等の申請をいずれも却下する。

訴訟費用は申請人等の負担とする。

理由

第一、申請の趣旨及び理由

申請人等は、「一、申請人等が被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。二、被申請人は、申請人榎本に対し金四千七百二十円、同尾城に対し金三千七百五円、並びに昭和三六年一月以降申請人等から被申請人に対する労働契約関係存在確認請求事件の判決確定に至るまでの間毎月二六日に申請人等に対し別紙賃金表記載の金員をそれぞれ支払え。」との裁判を求め、その理由の要旨は次のとおりである。

一、被申請人は電気機器等の製造販売を目的とする株式会社であり、申請人等はいずれも被申請人会社柳町工場の従業員であつたが、当初は臨時従業員の名目で期間を二カ月、賃金を日給と定めて被申請人会社に雇用され、その後引続き契約の更新をくり返して来た。すなわち、申請人榎本は、昭和三五年一月二八日入社し、契約更新回数は四回で第四製造部冷凍機課に所属し、申請人尾城は、昭和三四年一一月二七日入社し、契約更新回数は五回で第三製造部ラジオ部品課に所属し、申請人草地は、昭和三三年一二月一七日入社し、契約更新回数は一一回で第三製造部ラジオ課に所属していた。但し、申請人尾城、同草地両名の契約期間満了日は契約更新がくり返されているうちにいつの間にか隔月の末日に当るように変更されるに至つた。ところが、被申請人は、申請人榎本に対しては昭和三五年一一月二六日(契約期間満了日同年同月二七日)、同尾城に対しては同年同月三〇日(契約期間満了日同日)、同草地に対しては同年一二月三一日(契約期間満了日同日)にそれぞれ相次いで更新拒絶の意思表示をなした。

二、申請人等はいずれも次の理由により右契約更新拒絶の当時期間の定めのない労働契約の当事者であつたから更新拒絶の意思表示は法律上解雇の性質をもつものである。

(一)  申請人等と被申請人との間の各労働契約は形式上は二カ月の期間を定めた臨時労働契約となつているけれども、契約締結当初の約定では期間が満了しても契約関係の継続を否定するに足りる特段の事情のない限り当然に更新され長期間雇用されるものであることが契約の前提となつており、そのため契約更新の手続も全く形式的かつ杜撰なものであつた。また、現に、前記柳町工場においては正規従業員に対する臨時従業員の比率がきわめて高いばかりでなくその作業内容も全く同一であつて、臨時従業員は完全に生産工程に組み入れられその労働なくしては同工場の機能が麻痺する状態にあるので、臨時従業員は期間が満了しても引続き契約を更新されるのが常態となつており、事実申請人等も前記のとおり長期間にわたり契約更新を反覆して来ている。このように、本件労働契約は、名目は臨時労働契約となつているが、契約期間二カ月と定めた部分は形式的かつ無意味なもので法律的には期間の定めのない労働契約とみるべき性質のものである。

(二)  仮に右の主張が理由がないとしても、本件労働契約締結時の状況を実質的にみれば、それは自由なる合意に基いて成立したものではなく経済的強者である被申請人がその優越的地位を利用して経済的弱者中の弱者である申請人等に対しその窮迫に乗じ二カ月の期間を押しつけたものであり、また、臨時従業員が何らの合理的理由なく単に臨時従業員なるが故に二カ月の契約期間を押しつけられることは社会的身分による差別的取扱いを禁じた憲法第一四条、労働基準法第三条の法秩序を逸脱するばかりでなく、被申請人が二カ月の期間を定めた真意は労働者の解雇事由を制限する労働法の公序を逸脱して二カ月毎に全く自由に労働者を解雇しうるようにすることにあつたのだから、本件各労働契約中前記期間の定めに関する部分は社会的妥当性を欠きかつ公序良俗に反し無効であり、従つて本件各労働契約は期間の定めのないものである。

(三)  仮に右の主張が理由がないとしても、本件各労働契約中最初の二カ月に関する各約定は、その間に労働力の評価を行うという意味において試用期間的性質をもち、このような限度で有効と解されるが、その後の二カ月の期間のくり返しは何ら合理的理由がなく前記(二)のとおり社会的妥当性を欠くものであるから無効であり、従つて、申請人等はいずれも最初の二カ月の期間満了の際に労働力の評価が行われたうえで継続雇用が決定されたことになるからその後は期間の定めのない契約の当事者となつたものと評価すべきである。

三、仮に右の主張がいずれも理由がなく、二カ月という契約期間の定めがすべて有効であるとしても、被申請人の契約更新の拒絶は濫用にわたることを許されないものというべきである。すなわち、まず本件各労働契約は(一)に記載した事情の下に期間が満了しても引続き更新されるのが常態になつていたのであるから、それは民法第九二条にいわゆる「事実たる慣習」とみるべきであり、本件においても申請人等及び被申請人はいずれも契約締結に際し右事実たる慣習に反対の意思を表示せず、むしろ契約締結の際の事情からは右事実たる慣習に積極的に従う旨の意思表示のあつたことがうかがわれる。さらに、事実たる慣習とみるか否かにかかわりなく、本件のように契約更新が常態化している下で数回にわたり契約更新を重ねた場合には、特段の事情のない限り当事者間に契約を更新する旨の暗黙の合意が成立していたものとみるべきである。以上のいずれの理由によつても被申請人の契約更新拒絶の意思表示は特段の事情のあるときにのみ許され、かような事情がない場合には権利の濫用に該当することになるというべきである。

四、本件解雇又は更新拒絶の意思表示はいずれも次の理由により無効である。

(一)  不当労働行為に該当しかつ公序良俗に反する。前記柳町工場には正規従業員をもつて組織する労働組合が存在するが、数年前より同組合青年婦人部が主催してオンチコーラスと称する合唱サークル活動が続けられ、このサークルには臨時従業員の加入も認められたので多数の従業員が参加し、中でも申請人等は積極的に右サークル活動を行いその推進力となつた。ところが、このサークル活動を通して、一方正規従業員と臨時従業員との結びつきが強まるとともに、他方、臨時従業員の間で労働組合に対する関心が拡まる傾向が現われたため被申請人はオンチコーラスに対して強い敵意を抱きその解体を企図して積極的な工作を展開するに至つた。申請人等に対する解雇は明らかにこのような攻撃の一環として行われたもので、中心活動家を解雇することによつてサークルの中心を破壊するとともにサークル参加者の心理的動揺をひき起そうとしたものである。したがつて、労働組合法第七条第一号の不当労働行為に該当し、かつ労働法の公序に反するものである。

(二)  労働契約関係を否定するに足りる特段の事情なくして為されたもので権利の濫用に該当する。すなわち、申請人榎本は一年を通じて早退、欠勤各一回で変更残業を断つたのも僅か三回にすぎず他の者に比べて特に多いということは無くいずれの場合もやむをえない理由があつた。また、被申請人は申請人榎本が作業帽の着用に反対した、といつて非難するが、これは着用自体に反対したのではなく会社が安全のため必要として着用を命ずるのであればそれは無料であるべきだと主張して署名運動を行つたものであつて、労働者がこのような待遇改善の要求をかかげ署名運動等の団体行動を行うことは憲法に保障された団体行動権の正当な行使であつて何ら非難するに当らないものである。さらに、同申請人が新な班に移された際にその班長のことについて根堀り葉堀り聞いたといつて非難されているが、このような事実はなく、仮にあつたとしても全くとるに足らないことである。同申請人の所属していた冷凍機課フレオン班は未だ二交替制をとるに至つておらず本件解雇後も生産高、人員ともに漸増の傾向をたどつており同申請人を解雇すべき人員配置上の必要はなかつた。

次に、申請人尾城については、同申請人は一年間を通じて欠勤はなく、早退一回、遅刻二回で残業は一カ月約二十四時間もやり、作業成績は他の従業員に劣らず、その性格は明るくて人なつこく従業員の間に人望があり、敬愛されていた。また、同申請人の所属していたラジオ部品課では昭和三五年一一月当時人員削減の方向をとつてはいたが自然減がそれを上廻つていたため女子の臨時従業員一一名を補充しなければならない程であり、しかも、なお自然減が見込まれる状況にあつたのであるから人員配置の面からも同申請人を解雇するだけの必要はなかつた。

次に、申請人草地については、解雇前一年間欠勤、早退はなく、遅刻が二、三回あるだけで、残業も決して少ない方ではなく、被申請人は、同申請人の作業成績が他に比較して劣る、というが、同申請人は修理、調整など比較的複雑で熟練を要する仕事に終始従事しており、しかもそれは流れ作業の一環であり、ことに解雇前の約三カ月間に担当した調整工程は完全に流れ作業の一部を為していたから同申請人の作業だけが停滞するということは起りえない状況にあつた。同申請人が調整に移つた当初作業能率が低かつたのは新しい作業に未熟であつたためであり約一カ月後には他の従業員と同等の作業量をこなすに至つた。さらに、いわゆる本工登用試験はきわめて激しい競争率であつて同申請人と同様これに二回不合格となつた者は十数名もおり、また三回以上不合格になつた者も少なくないが、これらの者は解雇されていない。また、被申請人は申請人草地が通勤補助金を不正に受領したというが、同申請人は住居変更の都度その届出を為しており、被申請人会社側の手落のため通勤補助金が支給され同申請人の再三の申入れにもかかわらずこれが改められなかつたのであるから同申請人に不正の科はない。

以上のように、申請人等には従業員として非難すべき点はなく、人員配置上企業から排除されるべき理由はなかつたものである。

五、以上のとおり、本件解雇又は更新拒絶は無効であるから申請人等は被申請人に対し労働契約関係存在確認と賃金支払請求の本訴を提起すべく準備中である。本件解雇当時の日給は、申請人榎本が金二百九十五円、同尾城が金二百八十五円、同草地が金四百五円であり、申請人榎本は昭和三五年一一月二七日まで、同尾城は同年同月三〇日まで、同草地は同年一二月三一日までの各賃金を支払われているから申請人等の請求する各賃金は前記申請の趣旨のとおりとなる。そのうち、申請人榎本の昭和三五年一二月期残額は稼働可能日を十六日とし、同尾城の同期残額は稼働可能日を十三日とし、同草地の昭和三六年一月期残額は稼働可能日を一二日とし、それ以後の月額は一カ月の稼働可能日を各二五日としてそれぞれ算出したものである。申請人等は労働者であつて、被申請人から支払われる賃金を唯一の生活の資としているところ、本件解雇により賃金を失い著しく生活に窮しているので本件仮処分申請に及ぶ。

第二、当裁判所の判断

一、被申請人が電気機器等の製造販売を目的とする株式会社であること、申請人榎本は昭和三五年一月二八日被申請人会社に入社し、契約更新回数は四回で同会社柳町工場第四製造部冷凍機課に所属し、申請人尾城は昭和三四年一一月二七日入社し、契約更新回数は五回で同工場第三製造部ラジオ部品課に所属し、申請人草地は昭和三三年一二月一七日入社し契約更新回数は一一回で第三製造部ラジオ課に所属していたこと、被申請人が、申請人榎本に対しては契約期間満了日の前日である昭和三五年一一月二六日に、申請人尾城に対しては同満了日である同年同月三〇日にそれぞれ更新拒絶の意思表示をなしたことはいずれも当事者間に争がなく、本件疎明によれば、被申請人が申請人草地に対しては契約期間満了日の前日である昭和三五年一二月三〇日に更新拒絶の意思表示を為したことを一応認めることができる。

二、そこで、まず、本件各労働契約の法的性質について判断する。本件疎明によれば、申請人等はいずれも職業安定所の紹介により採用試験を経たうえで被申請人会社に入社したものであるがその際被申請人会社担当者から申請人等に適用される臨時従業員就業規則について労働条件等その内容に関する説明を受けたことを一応認めることができ、さらに被申請人会社が申請人等との間に臨時従業員という名目でその期間を二カ月と定めて雇入れる旨の各労働契約を為し、その後ほぼ二カ月毎に同一内容の契約更新を重ねていたことは当事者間に争がない。そして、当事者双方が二カ月という短期間の労働契約を為した場合において、該契約を更新する等の方法により雇用が長期にわたり継続することを予想していたとしても、そのことから直ちに当事者の明示の意思にもかかわらず当然に二カ月という期間の約定が法律上無意味なもので、当該労働契約は期間の定めのないものであると解すべき法的根拠は何ら存在しないものというべきである。次に、本件において右雇入れ及びその後の契約更新に際し、特に被申請人が申請人等の窮迫に乗じ二カ月の期間の定めを強いて承諾せしめたものと認めるに足りる疎明はなく、仮に申請人等が他に適当な職場がないためやむなく正規従業員とは労働条件を異にする臨時従業員として雇われあるいは契約更新することを承認せざるをえない事情にあつたものとしても、そのことのために当該労働契約中期間に関する部分が社会的妥当性を欠くか又は公序良俗に反するものであると解することはできない。また、臨時従業員の地位と正規従業員のそれとの差異は労働契約の内容自体に基くものであるから、これを以て憲法第一四条、労働基準法第三条にいわゆる社会的身分による差別的取扱を為したものということもできない。さらに、本件疎明によれば本件労働契約は本来労働者の側の事情に基く労働力の短期間の供給を利用することを目的とするものであり、被申請人の臨時従業員に対する雇止めないし更新拒絶は生産計画に対応する過剰人員の排除を企図するものであることを一応認めうるが、その場合被申請人が正規従業員の解雇に際して課せられる就業規則その他による制約を免れることは否定できないとしても、そのことは右労働契約の内容から生ずる結果であつて、この種の雇用契約が解雇の制約を潜脱する意図の下に為されたとの理由でその全部又は一部の効力を否定することは許されないものというべきである。また、被申請人と申請人等との間の最初の二カ月間の各労働契約締結の際に当事者間においてこれを試用期間とする旨の合意があつたことについては何らの疎明がない。以上の事実によれば、本件各更新拒絶の当時申請人等が被申請人との間にそれぞれ期間の定めのない労働契約関係にあつたものということはできず、従つて本件各更新拒絶の意思表示を法律上解雇と解することはできないものといわなければならない。

しかしながら、本件疎明によれば、申請人等は入社に際し被申請人会社担当者から期間が満了しても解雇するものではない、安心して長く働いて欲しい、一年経てばいわゆる本工登用試験を受けることもできる旨の説明を受けた事実のあること、被申請人会社においては申請人等の雇入以前から正規従業員と採用基準、労働条件、入社後の教育方法等を異にする臨時従業員を多数雇用しこれら臨時従業員を正規従業員とほぼ同一の職種、作業に従事させるとともに短期間の契約を逐次更新する方法によりかなりの長期間にわたり雇用を継続している事例が少なくなく、現に申請人等の場合もほぼ二カ月毎に前記のとおり更新をくり返し各自の通算雇用期間は一〇カ月ないし二年に及んでいること、被申請人は申請人等の契約期間が満了しても直ちに新規の労働契約締結の手続をとらずに申請人等が引き続き前と同一の労務に従事した後日時を経てからその手続をとることが多かつたこと、被申請人会社臨時従業員就業規則(疎乙第三号証の一)第八条は「次の各号の一に該当するときは、これを解雇する。」「三、契約期間が満了したとき」と規定し期間満了による雇止めの場合にもその旨の意思表示を要するものとしていることがそれぞれ一応認めることができ、これらの事実によれば、被申請人と申請人等との間には、契約期間満了とともに申請人等を雇止めにするためには更新拒絶の意思表示を要しもしその意思表示がないときはさらに前と同一の期間をもつて同一の内容の契約を更新する旨の暗黙の合意が当初から成立していたものというべきである。そして、かような場合において被申請人が更新拒絶の意思表示を為すにつきその意思表示が主として労働組合の正当な行為をしたこと等の故をもつてなされた場合には当該意思表示を解雇に準ずるものとして不当労働行為が成立し、また、それが濫用にわたる場合には権利の濫用に該当するものと解するのが相当である。

三、申請人等は同人等に対する前記各更新拒絶の意思表示は何れも不当労働行為又は権利の濫用に該当する旨主張するからこの点について判断する。

本件疎明によれば、被申請人会社柳町工場労働組合青年婦人対策部では昭和三十三年十月頃同組合の文化活動の一環としてオンチコーラスという名称の合唱のサークルを作り昭和三十四年二月頃からは同組合青年婦人部が同コーラスを主催していたこと、同組合青年婦人部の規則(疎甲第四十九号証)によればその部員たる資格として同組合の組合員であることが必要とされていたが合唱をするには組合員、非組合員の区別は必要でないとの見解の下に同組合は同コーラスに非組合員である臨時従業員の参加を認め、その発足当初は正規従業員と臨時従業員の割合はほぼ同数で間もなく臨時従業員の割合の方が多くなるに至つたこと、申請人草地は昭和三十四年十一月頃から同尾城は同年十二月頃から、同榎本は昭和三十五年三月頃からそれぞれオンチコーラスに参加し、その後引続き申請人尾城及び同榎本は本件雇止めに至るまで、同草地は同コーラスの解散に至るまでそれぞれ同コーラスのメンバーになつていたことがそれぞれ一応認められ、右事実並びに本件疎明によれば、右オンチコーラスは形式的には前記組合の活動の一環をなしてはいたがその実態は同好者がレクリエーションのために集つた一つの趣味の団体であるに止まり、被申請人会社をしてその動向に特別の関心を抱かせその各メンバーことにその内の臨時従業員に対して格別の注意ないし警戒心を惹起させるほどの特殊な活動をしていたものではなく、またそのような性質のものでもなかつたことを一応認めることができる。尤も、本件疎明によれば、同コーラスがいわゆる電機労連主催の「うたごえ」等外部での文化的集会に参加したこともあること、申請人等が前記工場に勤務していた当時臨時従業員と同工場労働組合との唯一の結びつきはオンチコーラスへの参加であつたこと、申請人等はいずれも同コーラス内での有力なメンバーであつたことをそれぞれ一応認めうるのであるが、前記各事実、本件各雇止めの時期、後記のその際の事情等とを綜合すれば、これらの事実並びにその他の資料によつてもなお被申請人会社がオンチコーラスに対して敵意を抱いてその解体を企図し、あるいは申請人等の同コーラス内での活動をとくに平素より注目してこれを嫌悪したため申請人等に対し本件各更新拒絶の意思表示を為したものであることの疎明はないし、また申請人等が同コーラス以外の組合活動を行つていたことの疎明もないから、結局本件各更新拒絶の意思表示は申請人等の組合活動を理由として為されたものであることの疎明がないことに帰着し、申請人等の右各意思表示は不当労働行為に該当する旨の主張は理由がない。

次に、本件疎明によれば、申請人等に対する更新拒絶の意思表示はそれぞれ次のような事情に基くものであることが一応認められる。

すなわち申請人榎本については、同人の所属していた冷凍機課においては生産増強の必要から昭和三十五年夏頃より従業員の就業を二交替制に切りかえ逐次労働基準法によつて深夜業を禁じられている女子を削減して男子に置きかえる方針をとり、その結果同課においては同年十月から約一年間に女子の従業員合計約五十名を削減したが、申請人榎本に対する更新拒絶もその措置の一つとして行われたものであること、その際同申請人の従来の作業に対する態度その性格をも考慮して同申請人を人員削減の対象としたものであること、

申請人尾城については、同申請人の所属していたラジオ部品課の生産量が昭和三十五年四月をピークとして次第に減少の傾向にあり、これに対応して同課の人員を削減することを余儀なくされた結果、同課の総人員数を同年四月の四百六十三名から同年十一月四百名、昭和三十六年三月三百二十五名と大幅に削減するに至り、このような事情の下で被申請人会社は同申請人の従来の作業振り、職場でのその態度をも考慮のうえ同申請人に対し更新拒絶をするに至つたものであること、その後昭和三五年一二月には同課には一名の増員もされていないことをそれぞれ一応認めることができる。

右事実並びに本件疎明資料によれば、被申請人会社が右申請人両名を雇止めにしたのは主として生産計画に伴う過剰人員排除の必要に基くものであつて、同時に使用者としての立場から申請人両名が企業の生産能率上好ましくないものと判断したためであることの疎明がある。このような事情の下における更新拒絶の意思表示は権利の濫用に該当するものということはできない。ただ、その際被申請人会社は使用者として申請人両名について能う限り他部門への配置換を考慮し、また、申請人両名の勤務成績、態度、その性格等についても一方的判断に偏ることなく具体的な裏付けをもとにできるだけ慎重かつ厳密に他の従業員との比較検討を行うことがより望ましいものであることは否定できないけれども、就業規則上期間満了による雇止めないし更新拒絶の認められている臨時従業員の場合には、正規従業員の場合とは異り、仮に被申請人会社において右の点についての努力に欠けるところがあつたとしても、この事実のみによつては未だ申請人両名に対する更新拒絶を以て権利の濫用に該当するものとは解しがたく、他には申請人両名に対する更新拒絶の意思表示が権利の濫用に該当することの疎明資料はない。

又、申請人草地については、昭和三五年四月頃から同申請人の作業能率が低下するようになつたため被申請人会社では同申請人を同年一〇月から他の作業に配置換したが、その後も依然として作業能率は向上せず同申請人より後に同じ作業に従事するようになつた者よりも劣るほどの作業成績であつたこと、この間上司が同申請人にその事情を尋ねたところ健康が思わしくないとのことであつたため同申請人に退職を勧めたこともあつたこと、同申請人は昭和三十四年九月その住居を変更し従前の額の通勤補助金の支給を受ける資格がなくなつたのに引続きその支給を受け、その間の事情は別としても本件雇止めに至るまで進んでその金員を返還したことは一度もなかつたこと、同申請人の雇止めに際しては右のような諸点が考慮されたことをそれぞれ一応認めうるので、このような事情の下における同申請人に対する更新拒絶が権利濫用にわたるものとは到底解しがたくその他にはその権利の濫用に該当することを疎明すべき何らの資料もない。

四、以上のとおり、被申請人が申請人等に対してなした本件各更新拒絶の意思表示が無効であるとの申請人等の主張は何れも理由がないから、本件仮処分申請は何れも之を却下することとし、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 松尾巖 小山俊彦 奥山恒朗)

(別紙) 賃金表

申請人   昭和三十六年一月期 同年二月期以降

榎本多津子 七千三百七十五円  同上

尾城彰子  七千百二十五円   同上

草地茂治  四千八百六十円   一万百二十五円

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